Zac Fukuda

Phil Knight『Shoe Dog』

旅のお供といえば、本。

60日間のバリ旅行のお供に選んだのはStructure and Interpretation of Computer Program(SICP)だった。600ページにおよび大書。さらに内容も難しい。60日間の余暇を過ごすにはもってこいだ。

とりあえず、行きの飛行機、計9時間の移動の内、7時間ほどはSICPを読む。バリについての休日、晴天下、滞在先のプールサイドにあるパラソル付きベンチでSICPを読む。

全くリラックスできない。内容が難し過ぎる。書かれていることが理解できない自分にストレスを感じる。これじゃ、何のためにバリへ来たのかわからない。

バリ滞在の半分を過ぎたところで意を決す。バリにいる間はSICPと向き合おうと思ったが予定を変更。もっとリラックスできる本を買って読もう。

ある夜、夕飯を食べ終え、滞在先から徒歩10分くらいにある洋書を取り扱う本屋へ足を運ぶ。買おうと思っていた本はほぼ決まっていた。ビル・ゲイツ著の『Source Code』だ。お目当ての本は、案の定、店頭に置いてある。

しかし、最近はどんな本が流行っているのだろうか。ノマド生活を始めてから日常的な読書からは遠ざかっていた。無目的に店内を見て回る。正直、気を惹かれる本はほぼない。マルコム・グラッドウェル著『Revenge of Tipping Point』は読みたいリストに入っているが、ペーパーバックしか置かれていない。せっかくならハードカバー版で読みたい。

ふと、『Source Code』の近く、ナイキのロゴマークが目に入る。表紙に「Shoe Dog フィル・ナイト」とある。表紙上部と下部にビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットからの添え書きもある。(本を読むと、なぜこの2人から添え書きを貰えているかがわかる。)

ランニングに本格的に取り組み始める時、ランナーは一つの決断をしなくてはならない。どのスポーツブランドを愛用するか。

ランニングに注力する前、自分の推しブランドはアンダー・アーマーだった。キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャーの冒頭、スティーブ・ロジャーがアンダー・アーマーのTシャツを着て、ムチムチの筋肉を盛り上がらせながら走る姿は、“カッコいい男”のテンプレート。そんなスティーブ・ロジャー(クリス・エヴァンス)に憧れを抱き、アンダー・アーバーを着て、日々トレーニングを頑張っていた。

だが、トレーニングブランドとしてアンダー・アーマーは優秀かもしれないが、ランニングブランドのイメージは薄い。自分に残されたチョイスはナイキ、アディダス、アシックス。(この時、自分はまだOnの存在を軽視していた。)

偏見かもしれないが、アシックスは日本人の足に良く合うと言われている。日本企業なので、日本人の足を最優先に考えるわけだから、当然である。今やどの企業もカーボンプレート付きシューズを出している。走りやすさだけを考えればアシックスを選ぶのが賢明だろう。

だが、アシックスには大きな弱点が1つある。商品がカッコ悪い。カッコ悪いというよりは地味だ。残念ながらアシックス製品は海外スポーツブランドほど「走りたい!」願望を刺激してくれない。多忙、且つ、楽をしようと思えばすぐ走らなくなってしまう市民ランナーにとって、これは致命的である。

では、ナイキかアディダスか。

2015年、フリーランスとして初めてまとまって入った報酬で買ったのは、アディダスのランニングシューズだった。詳しいモデルは覚えていないが、TAKUMIシリーズだった。このTAKUMIはかなり気に入ってた。だが、いまや厚底シューズが主流。時代は変わった。加えて、ランニングはシューズだけではなく、ウェアも大事だ。

個人的な見解において、1番カッコいいウェアを出すのはアディダスだ。だが、この1番カッコいいには裏がある。カッコよさを外しやすいのも、またアディダスである。やたらロゴをデカくプリントするデザインはやめて欲しい。(田舎のヤンキーが着ていそうなジャージもアディダスである。)

カーボンプレートシューズの先駆者はナイキ。マラソン男子世界記録を出しているのはナイキ。マラソン男子日本記録を出しているのもナイキ。毎シーズン、コンスタントにカッコいい商品を出してくれるのはナイキ。

以上のことから、自分はナイキ製品愛用を心に決めた。

『Shoe Dog』はナイキ共同創設者のフィル・ナイトが語る、ナイキ誕生の自伝書。
世間ではナイキの衰退が騒がれている。だが、同書を読んで、ナイキを選らんだ、あの日の自分の決断は間違いではなかったのだと確信する。

ナイキストアを開けばゴールデンウィーク前のセールが開催されている。Bowerman Track Clubのシングレットをポチッ。

2025年4月の週末。本から目を上げれば、目の前にはインド洋。吹き付ける波風。沖ではサーファーが順番に波を捕まえていく。眼下のビーチではビキニ姿の金髪碧眼女性グループが通り去る。一口、フルーツソーダをすする。もうちょっと読書。

浜辺にぶつかる波音が耳に届く。Swoooosh。