内田繁『普通のデザイン』
建築家—厳密に言うと著者はインテリアデザイナー—の感性と知性、さらに自身のそれを言語化する表現力には、惚れぼれしてしまう。
同書を読み終えてから、このブログを書き始める間に、凡庸をテーマにした別の本を読んだ。内容が少し自分の頭の中で錯誤している気がするが、思ったことを綴りたいと思う。
ノマド生活をしていて、常々感じること。結局、普通が一番だということ。普通が良いと頭に過ぎることは大きく2つある。
- 居住形式
- 宿泊形式
居住形式
ノマドと定住。人類は、長い文化発展の末、定住することに帰着した。大多数の割合が占めるものを普通だとすれば、定住生活は現代における普通の生活様式だと言える。ノマド生活に憧れを抱く人は多いかもしれない。場所に縛られずにできる仕事、半永久的に終わらない旅、新しい出会い・アクティビティ。
確かに、これらはノマドの良い点である。しかし、良いものの裏には必ず裏があるのが世の常、普通である。自分が考えるノマドの課題は、以下の通り。
- モノの備蓄
- プラニング
- 環境適応
- 習慣形成
モノの備蓄
当然だが、住宅の中身一式を運びながらノマド生活はできない。いくらキャンピングカーでノマド生活するにしても、一室に収まるぐらいの荷物を持って移動するのが限度だろう。主な交通手段が飛行機・新幹線となれば、さらに荷物制限は厳しくなる。自分はビジネスバックパックと約40Lのスーツケースに収まる荷物のみで生活をしている。荷造り負荷、移動負担のことを考えると、自分はこれくらいの量の荷物が適量だと考えている。
多分、自分のノマド荷物は、一般人がする4泊5日の荷物量より少ない。元々、物欲がない方なので、バック+スーツケースの荷物でも十分だ。ただ、十分というのはあくまで必要最低限という意味。この荷物だけあれば生涯幸せに生きていけるというのとは話しが別である。特に不満に感じるのは本と洋服。読み終えた本は、毎回移動前に実家に郵送している。次の移動までに読み切れる本の量を調整しなくてはいけないし、読みたい本を手当たり次第に購入・貯め置きし、一冊読み終えたら次の本へみたいなこともできない。貯め置きができないから、読書の習慣化も難しい。せいぜい移動にお供できる本は二冊。だが、この二冊のスポットもプログラミング専門書が独占している。読む本を常時そばに置いておくのはノマドにとっては現実的でない。
洋服に関していうと自分は6日分の洋服—ランニングウェア5日分、カジュアルウェア1日分—を持ち歩いている。カジュアル服を着ることは滅多にない。実際はランニングウェア5日分を無限着回し状態。飽きる。苦肉の策として、約半年ごとに新しいウェアを購入するようにしているが、それでもすぐ着回しサイクルに入ってしまう。“新品のお洋服”を感じることは最初の1度、半年に1度だけになる。
カジュアルウェアも1セットしかないので、週末はおしゃれをして街へお出かけ、みたいな気晴らしができないのも、精神的にキツい。ノマドを生活を辞めた際、いま一番したいことはオシャレである。
プラニング
ランニングはハマるとやばい。最低1時間が走らないと走った気がしない。1時間走るということは、ウォーミングアップ、クールダウン、シャワーを含めると、ゆうに2時間が過ぎてしまう。フルタイムワークとランニングを両立すると、他の物事に費やす時間は皆無だ。
ノマドのプランニングは時間がかかる。キッチンなど生活家電・備品完備しており、1ヶ月分程度の家賃で長期滞在できる場所は、デジタル時代の現代でも、まだそれほど多くはない。滞在したい街に滞在できる場所を見つけるのは一苦労だ。
滞在場所を決めた後も、仕事との調整、飛行機の手配が必要。1日で移動が完了しない場合は、道中のホテルも押さえなくてはいけない。飛行機代・ホテル代とタイミングのバランス調整も大事だ。うっかり3連休と移動が被ると、出費が倍以上になってしまいかねない。
環境適応
費用・設備・周辺環境の観点から、完璧なノマド滞在場所は、まだ国内にない。(逆に言うとビジネスチャンスではある。) 何かしらの妥協をしなければ、ノマド生活は不可能だ。そして、妥協した環境への適応はしんどい。
中でも一番適応が面倒なのはキッチン。他人が使うキッチンほどストレスが溜まるモノはない。何がどこにあるか覚えなければならない。使いたいものが、自分のあって欲しいところにない。使いたい鍋・フライパン・皿などが棚の下の方にあってテキパキ取り出せない。水場、コンロ、冷蔵庫、食器棚まで数ステップ歩かないといけない。冷蔵庫の中がごちゃごちゃ。前に使った人の使用痕跡・油汚れ。IHコンロは適度な火加減がわからない。フライパン、鍋の熱伝導率把握。
自宅で料理をしている時、時間の使い方としては、簡単な料理であれば調理20分、食事20分、洗い物20分、計1時間ぐらいが妥当であった。だが、ノマドになってからは1時間30分はかかる。この差30分が夜の時間を圧迫し、精神的な余裕に大きく影響を与える。
キッチン以外で言うと、ある種ノマドをターゲットにしている宿泊業にも関わらず、終日デスクワークをすることを一切考慮されていないデスクとイスには不満を抱く。
習慣形成
熱海に住んでいた時、毎週末市内温水プールに行き、スイミングをするのが習慣だった。ルーティンをこなすのは肉体的・精神的状態の安定にとても役立つ。ノマドをし始めてからは、専らランニングがルーティンなのだが、移動の度にランニングコースが変わる。北海道と九州・沖縄では、同年同日でも日の出・日の入時刻が1時間弱は変わる。通年、同じ部屋・ベッドで寝ているわけではないので、安定した睡眠習慣も築けない。
何より頻繁に発生する移動でルーティンは崩れる。
時間の使い方に関しては、できる限りルーティンを構築する、実行する努力はしているが、いまいちリズムに乗れず、消化不良感が拭えない。
宿泊形式
ノマドが使う宿泊形式は、大きく分類すると
- ホテル
- 民泊 / ゲストハウス / ホステル
- AirBnB
- シェアハウス / シェアアパートメント
- マンスリー/ウィークリーマンション
がある。ゲストハウス運営者は、ゲストハウスは民泊、ホステルではないと主張するかもしれないが、ここでは同類とする。
長期滞在という点では、3~5. が主流となるが、ここでは一般的な旅行に使用する、1~3に焦点を当てたい。
民泊 / ゲストハウス / ホステル
大前提だが、お金が許すのあれば、ドミトリーより個室の方が断然良い。もちろんドミトリーで他旅行客との出会いを楽しみたい、宿泊費を抑えてその分グルメ・アクティビティにお金を使いたいという観光客には、ドミトリーを提供する民泊、ゲストハウス、ホステルは1つの最適施設である。だが、個室に泊まりたいというのが市場の一般願望であろう。そうすると、共同部屋しか提供していない民泊、ゲストハウス、ホステルは普通の宿泊先ではない。
AirBnB
新しいという点でAirBnbはまず普通でない。
1泊10万円以上するAirBnb施設がある。きっとそのような施設は素晴らしいのだろう。だが、自分はそのようなにところに泊まったことがないため、自分にはそれを語る資格がない。
だから、一般的な年収の人物が普通の旅行で泊まるような1泊1~2万円のAirBnb施設について批評する。
相場1泊1~2万円のAirBnb施設は空き家、アパートメントなどを宿泊施設として提供するケースが多い。加えて、このようなAirBnb施設はは繁華街よりは住宅エリアにあることが多い。アクセスが不便だ。単的な所感になるが、非日常を体験しに来ている旅行で、日常生活の延長線上に存在するAirBnb施設は、なんだが感動しない。勿体無い。
結局、AirBnbを使用する主目的は、ゲストハウスなどと同様、費用を抑えることである。
ホテル
最終的に、旅行をするならホテルが一番。
だが、近年、普通じゃないホテルが急増している。普通じゃないホテルを提供しても、市場で差別化が図れず、客が呼び込めない。だからホテル業界は、普通からの脱却に必至だ。では、普通のホテルとは。
自分が感じた普通のホテルの一室は以下を完備している。
- オートロック・カードキー
- 照明・カードキーの連動
- メイン、エントランス、デスク、ベッドサイド、バス・トイレ照明
- ハンガーラック、ハンガー、消臭スプレー、ブラシ完備
- (折りたたみ式)荷物台
- 専用バス・トイレ
- ドロワー付きデスク
- 背もたれ付きチェア
- メモ帳・ステーショナリー
- ドリンク用カップ
- 歯ブラシ用カップ
- ドライヤー
- 電気ポッド
- ベッド
- ベッドサイド照明コントロール
- テレビ
- (簡素なリモコン付き)空調
不思議だが、そこまでホテル滞在経験が豊富ではない自分にも、潜在意識として上記に挙げたモノは「ホテルルームとしてあって当たり前」と思って行動する。見逃しているものもあるかもしれないが、つまり、これらの1つどれかでも欠いてしまうと「あれっ、あれがない」となり、宿泊体験が損なわれてしまう。
少し前までアメニティ類は部屋に完備されていたが、最近はロビーに設置して客が任意にとっていく方式が一般化された。コロナ禍以降、空気清浄機を置くのも、今では普通かもしれない。
普通ではないホテルは、新しいことを始めて、コスト調整のため先述した必須設備のどれかを割愛する。1泊あたりの宿泊料金を下げようと、共有スペースにお金をかけて、各部屋は簡素化されてしまう。
普通ではない普通を目指して
普通のモノは必ず良いとは断言できない。しかし、本当に良いものは必ず普通を通り越している。良いものをつくる上で、普通を満たすことは必須条件だ。
普通ではない普通。そういった創作をしていきたい。